東京大学生命科学シンポジウム2010

地球上の生命に関する不思議や、病気の原因や治療方法の開発、生命科学と人間社会の関わりなど、東京大学では多種多様な分野の研究と教育を進めています。

ゲノム情報発現制御とエピゲノム制御の分子機構

 真核細胞DNAは、ヒストンタンパクに巻きつき、特徴的な染色体構造を形成している。最近染色体は、刻々とダイナミックに構造が変化し、遺伝子発現制御を染色体レベルで調節することが明らかになりつつある。このような染色体構造調節は、ヒストンコードとよばれる染色体ヒストンタンパク修飾の特異的組み合わせにより規定される仮説が支持されつつあり、エピゲノムの中核のひとつと考えられつつある。エピゲノムは、各種慢性疾患や、再生医学の進展に欠かす事のできない基盤的な知識となりつつある。
 このようなゲノム情報発現制御におけるヒストンコードの重要性を検証するモデルシステムとして、核内受容体群による染色体構造調節やヒストン修飾の解析は、極めて有用である。核内受容体群は、ビタミンA,Dをはじめとした、ステロイド/甲状腺ホルモン及エイコサノイド等の低分子量脂溶性生理活性物質を、リガンドとした転写制御因子である。これら核内受容体は、リガンド誘導性転写制御因子として転写共役因子複合体群と相互作用することで、標的遺伝子群の発現を転写レベルで制御する。これら転写共役因子複合体群の主たる機能は、染色体構造調節やヒストンタンパク修飾であることが、次々と明らかになってきている。更にこれら複合体は、各種シグナル因子と直接的・間接的に相互作用することで、他のシグナルとクロストークすることを我々は明らかにした。しかしながらこれら複合体の構成因子群の性状や、染色体構造制御複合体との関連など、不明な点が極めて多いのが現状である。本講演では、核内ビタミンA(レチノイド)受容体の転写制御を担うヒストンメチル化酵素複合体の糖修飾による活性化制御(Nature 459, 455, 2009a)やビタミンD受容体による転写抑制複合体(Nature, 461,1005, 2009b)による例を紹介することで、核内脂溶性ビタミン受容体による新たな遺伝子発現制御の分子機構について触れたい。

核内受容体リガンドによる生理作用発揮の概念図
エピゲノム制御因子複合体群によるクロマチン構造調節の概念図

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加藤 茂明
加藤 茂明
分子細胞生物学研究所

略歴
1988年3月 :
東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻 
博士課程修了(農学博士)
1988年4月 :
東京農業大学農学部農芸化学科助手
1996年2月 :
東京大学分子細胞生物学研究所助教授
1998年12月 :
同上 教授
2004年10月 :
科学技術振興機構
「戦略的創造研究推進事業」(ERATO)
研究総括(2010年3月終了)

参考資料
(1)Kim, M., Kondo, T., Takada, I., Youn, M., Yamamoto, Y., Takahashi, S., Matsumoto, T., Fujiyama, S., Shirode, Y., Yamaoka, I., Kitagawa H., Takeyama, K., Shibuya, H., Ohtake, F., Kato, S.: DNA demethylation in hormone-induced transcriptional derepression. Nature, 461, 1007-1012, 2009
(2)Fujiki, R., Chikanishi, T., Hashiba, W., Ito, H., Takada, I., Roeder, R. G., Kitagawa, H., Kato, S.: GlcNAcylation of a histone methyltransferase in retinoic-acid-induced granulopoiesis. Nature. 459, 455-459, 2009
(3)Nakamura, T., Imai, Y., Matsumoto, T., Sato, S., Takeuchi, K., Igarashi, K., Harada,Y., Azuma, Y., Krust, A., Yamamoto, Y., Nishina, H., Takeda, S., Takayanagi, H., Metzger, D., Kanno, J., Takaoka, K., Martin, T. J., Chambon, P., Kato, S.: Estrogen prevents bone loss via estrogen receptor alpha and induction of Fas ligand in osteoclasts. Cell, 130, 811-823, 2007
(4)Ohtake, F., Baba, A., Takada, I., Okada, M., Iwasaki, K., Miki, H., Takahashi, S., Kouzmenko, A., Nohara, K., Chiba, T., Fujii-Kuriyama, Y., Kato, S.: Dioxin receptor is a ligand-dependent E3 ubiquitin ligase. Nature, 446, 562-566, 2007.

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